動かないでいるだけでかかってしまう「生活不活発病」。聞きなれない病名かもしれませんが、実は普通に生活していても発症しやすい怖い病気です。
「生活不活発病って何だろう?」
「どういう時になりやすいのかな?」
このページでは、上記のような疑問に答えていきます。この記事を読み終えれば、生活不活発病の症状や発症原因について理解できます。明日からの日常生活のみならず災害時にも活かしていただければ嬉しいです!
動かないだけで発症する?「生活不活発病」とは
まずは、生活不発病の特徴と症状についてみていきましょう。
生活不活発病とは
生活不活発病とは、生活が不活発、つまり動かない状態が続くことで、心身の機能が低下し発症する病のこと。「なんか最近歩きにくくなったな」「外出がめんどうだな」等感じることが増え、運動不足になり、社会との交流が徐々に減っていきます。すると身体的にも筋力の低下、心肺機能の低下が生じ体力が落ちた状態となります。
国立研究開発法人産業技術総合研究所の大川弥生先生によって提唱された用語であり、医学的な専門用語では「廃用症候群」と呼ばれることもあります。
どんな症状があるのか
上記でも説明した通り、主には筋力の低下、心肺機能の低下が生じ体力が落ちた状態となります。しかし、症状としてまず感じられるのは「生活動作(日常の生活上の動作)の不自由さ・難しさ」になります。
生活動作は多くの心身機能によって支えられています。そのため、それぞれの機能が少し低下しただけでも動作の「やりにくさ」「疲れやすさ」を感じたりするのです。
やりにくさを感じやすい身近な動作の例としては以下が挙げられます。
・布団から起き上がるのが大変
・椅子から立ち上がるのに苦労する
・段差があがりにくい
・何もないところでつまずく
・少しの家事で息切れする
・飲み込みの時にむせる
・なんとなくやる気が起きない
・ボーっとしてミスをしやすい 等
こういった生活の「やりにくさ」を感じてくると、それぞれの機能低下も生じている可能性があります。また実際の動作をする際の気持ち、モチベーションなど精神面の低下も「やりにくさ」を助長させる場合があります。
以下、生活不活発病の主な症状になります。
身体の機能 精神の機能
・関節が硬くなる
・筋力の低下
・筋肉自体の萎縮
・骨の萎縮
・皮膚の萎縮
・床ずれ
・血液の循環調整機能の低下
(※1起立性低血圧)
・深部静脈血栓症
(※2エコノミークラス症候群) ・うつ気分
・頭が回らない(判断力や反応の低下)
・周囲への無関心
・興味、関心の減退
・忘れっぽくなる
※1起立性低血圧とは:横になった姿勢、座った姿勢から急に立ち上がった時に急な血圧の低下により、立ちくらみや失神をおこす状態。立つことで全身の循環血液は腹部や足に移行します。正常なら、姿勢が変わっても血圧が維持されますが、何らかの原因でその調整機能が働かないと、血圧は下がったまま戻りにくくなってしまいます。
※2エコノミークラス症候群とは:動作が少なく長時間同じ姿勢でいると足の血流が悪くなり血栓(血のかたまり)ができやすくなります。小さな血栓が静脈を詰まらせてしまうと足、や膝が腫れ次いで、ふくらはぎや大腿に激しい痛みがきます。海外旅行などで長時間飛行機に搭乗した際に起きることもあります。
生活不活発病が発症しやすい人の特徴
上記で述べた通り、生活不活発病は「心身機能」「生活活動」「社会参加」が相互に関係しており、そのどれかが低下してしまっている人、低下しやすい状態の人は発症の危険性が高くなります。
高齢者
加齢に伴い、誰でも体力は衰えてきます。また仕事の引退に伴い社会参加の機会も減少し心身ともに機能の低下がでてきます。基本的に老化は進んでいくものなので、一旦生活不活発病が生じると悪化しやすいという特徴があります。
けがや病気の人
けがや病気によって体力が落ち、生活に制限が生じた場合も発症に注意が必要です。けがの程度にもよりますが、制限が長期間になるほど危険性は高まります。
生活環境が著しく変わった人
新しい環境で引きこもりがちになり、気持ちが落ち込んで低活動になった場合もリスクが高まります。また、地震など災害による環境の変化も社会参加の阻害条件として大きく、生活機能低下につながるため要注意です。
特に震災時は、以下の理由から被災者は動かない、もしくは動けない状態になりやすくなります。
環境の変化
・街中にがれきが散乱していて歩きづらい
・家の中で物が散乱していて歩けない
・余震が起こるため、できるだけ動きたくない
・避難所は通路に物があふれており歩きにくい
周囲への遠慮
・自分が動くと人の手を借りることになり、周囲に迷惑がかかる
・避難所は足音が気になるため歩き回りづらい
・周囲の人やボランティアが代わりにやってくれる
役割の喪失
・家事や庭の手入れなど、自宅での役割がなくなった
・地域の付き合いやイベントなどがなくなった
生活不活発病発症の悪循環
生活不活発病は「心身機能」「生活活動」「社会参加」が相互に関係し、悪化していくと考えられています。リスクの高い人では、知らず知らずのうちに心身機能全体が低下し、それにより生活活動が困難になります。すると家庭内の役割や社会参加の範囲も狭くなり、さらに生活が不活発になるという悪循環に陥ります。
また、災害時にはこれらの要素に加えて「環境の変化」「周囲への遠慮」「役割の喪失」が加わりよりリスクは高まります。(図参照)
厚生労働省では、生活不活発病が起こりやすい地震や台風・大雨・洪水などによる自然災害時に、「生活不活発病チェックリスト」の利用による早期発見・早期対応を推奨しています。
生活不活発病チェックリストでは「屋外を歩くこと」、「自宅内を歩くこと」、「身の回りの行為」、「車椅子の利用」、「外出の回数」、「日中どのくらい身体を動かしているか」、「歩くことなどが難しくなったか」の項目ごとに災害発生前と現在で比較し、状態が1段階低下している場合は注意が必要であるとしています。また、要注意の項目に当てはまる場合は保健師、救護班、行政、医療機関などに相談が必要といわれています。
生活不活発病発症が懸念された過去の災害例
災害時に生活不活発病が心配された例を紹介していきます。
感染症ウイルス被害
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)
SARS-CoVは、コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられている。2002年に中国広東省で発生し、2002年11月から2003年7月の間に30を超える国や地域に拡大した。2003年12月時点のWHOの報告によると疑い例を含むSARS患者は8,069人、うち775人が重症の肺炎で死亡した(致命率9.6%)。
感染拡大予防のひとつに、不要不急の外出の自粛があげられ高齢者を含め外出機会の減少、活動性の低下が生じました。このことにより、感染症が流行した際にも、生活不活発病の発症も懸念されています。
大災害時の避難生活
急に避難生活が始まると、生活不活発病の発症が心配になります。
避難生活の特徴
避難所での生活は、動きまわることが不自由になりがちなことに加え、それまで自分で行っていた掃除や炊事、買い物等などができない、ボランティアの方等から「自分達でやります」と言われてあまり動かないということが生じます。また、家庭での役割や人との付き合いの範囲も狭くなりがちで、生活が不活発になりやすい状況にあります。
実際の事例
実際に災害時の生活不活発病が発生、認識が広まったのは2004年新潟中越の時です。その後、十分な対策が講じられる前に東日本大震災が発生。南三陸町民生活機能調査によると、震災後歩行困難が出現し、7ヶ月時点でも回復していない人の割合は要介護認定高齢者で50.2%、非要介護認定高齢者で23.9%でした。
まとめ
今回は生活不活発病について紹介してきました。
生活不活発病は環境、心身の変化によって誰でも発症する危険性があり、かつ進行すると深刻な病です。災害はいつ誰に起こるかは分かりません。ひとつの防災知識としてしっかりと理解を深め、万が一の災害時に備えておきましょう。
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